認知療法NEWS

日本認知療法研究会 第2回大会:症例報告抄録

1 認知療法における治療関係の取り扱いについて:人格障害と思われる症例を通して

国立療養所南福岡病院心療内科 東 斉彰

認知療法は元々うつ病の治療として始まり,その後不安障害や恐慌性障害,摂食障害などにも適用が広がったが,近年では性格そのものの病理である人格障害への適用が提唱されている。人格障害の治療においては良好な治療関係を保持することが難しく,介入に抵抗を示したり,治療者(以下Th.)に対してネガティブな感情を示すなどの傾向が強い。本発表では人格障害と思われる症例を通して,治療関係を良好に保つ工夫について論じる。

症例は20歳の女性,主訴は「会話や食事の時つばを飲みこむのを意識してしまう」というものである。15歳の時両親の性行為に遭遇してから発症,その後拒食症状や自殺未遂があり,現在に至っている。初回面接でも飲み込みTh.にわかったと言うが,<聞こえなかった>,<周りの人は案外何も思っていないかも>と応じると次回から症状は軽減した。しかし第7回セッションで「わざと私を怒らせてる」と不満を訴え,その後恋愛問題や対人関係で葛藤を起こしたり拒食症状を呈し,危険な仕事をしようとしたり自殺をほのめかすなど行動化傾向が強くなった。第12回セッションから非機能的思考記録用紙(DTR)を使用して認知変容(否定的予測,感情的論法,選択的抽出などの認知の歪みを合理的思考に変更)を体系的に行ったところ,不安が軽減し生活態度も適応的になってきた。その後もTh.の介入に対して怒りを示すこともあったが,そのような感情に対しても認知の歪みを指摘し,一貫して合理的思考への変更を促したところさらに症状は軽快し,対人関係も良好になり,第25回セッションにて終了とした。3年半後に対人関係の葛藤から症状が再燃,面接再開となったが,前回と同じく認知変容を促したところ順調に合理的思考に変更でき,症状も軽減,第8回セッションにて終了とした。

このように人格障害の治療では治療構造を揺るがすような反応を示すことがあるが,患者の感情的な反応も積極的に取り上げ,認知の歪みを指摘し合理的反応に変換していく作業を一貫して繰り返すことによって,治療を中断することなく効果を上げることができる。


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