認知療法NEWS

日本認知療法研究会 第2回大会:一般演題抄録

1 慢性炎症性腸疾患に対する認知療法的援助:症例を通して

慶應義塾大学大学院医学研究科修士課程(医科学専攻) 寺本 薫

クローン病は病因不明で寛解と増悪を繰り返す傾向がある慢性疾患で,増悪はストレスと密接に関連していると考えられている。そのためクローン病患者には,内科治療に加え精神的なケアが必要であると考える。そこで,今回は認知療法を用いてクローン病患者にアプローチした1症例をとりあげる。この症例では患者は慢性疾患という病気を患い,それを受容できずに母親に対する怒りとなって,母親を攻撃したが,母親から友人に視点をずらし立場を変えて対人関係における認知について焦点をあてることで,自分の対人関係における認知のパターンの歪みを修正し,友人そして母親に対する信頼感をとりもどした。

クローン病患者が若者に多いことや長期に亘る治療を考えると,各患者の病態や社会的背景をも考慮した全人的アプローチがなされなければならない。また,根治療法が存在しないために,その治療目的は患者の快適な社会生活や家庭生活への復帰及び継続を可能ならしめるべく,患者のQOLの改善にある。

それに対する,認知療法的アプローチが有効であると思われる。

2 骨髄移植患者に対する認知療法的援助:症例を通して

慶應義塾大学大学院医学研究科修士課程(医科学専攻) 田中暁子

慶應義塾大学医学部精神・神経科 黒沢真澄,大野 裕

骨髄移植患者全員に対して精神面のサポートを目的に,継続的な面接を実施している。ここでは,症例を通して骨髄移植患者に対する認知療法的援助について検討した。

症例では,移植前には,現実の問題へ目を向けることで,自分が病気であるということを徐々に受け容れていった。移植後は,退院へ向けての不安が高まっていたが,認知療法的アプローチによりひとつひとつ問題を具体化して解決方法を考えていった。実際に家族と話し合うことにより,家族のサポートを再認識すると共に,自分の問題から外側に目を向けて考えられるようになり,今後の生活や再発の不安を軽減できた。

これは比較的精神の安定した患者の例であり,家族の面でも,ある程度サポートがある場合である。しかしこのような場合でも,骨髄移植という問題は,患者にとって生きるか死ぬかという大きなストレスとなり,家族にも言えない強い不安や悩みを抱えている場合が多い。

病状が著しく変化する中で,身体的苦痛と闘いながら,不安や苦しみなどの様々な精神的苦痛を和らげるためには,短期間で行え,患者の主体性を尊重しながら共に考えていく認知療法的サポートが有効であると思われる。

3 疼痛性障害の思春期症例に対する認知療法的関わり

慶應義塾大学大学院医学研究科修士課程(医科学専攻) 斎藤直子

母の死後,右肘痛が出現し,精神的要因を指摘されて整形外科から紹介となった思春期女子の症例である。

面接は全4回,父親と姉とが積極的に参加したため,最初から家族を巻き込んだ形でスムーズに進んだ。面接場面では疼痛の事ではなく,主に父親との確執について多くが語られた。父親としては,「本人も寂しいだろうし,母親の分も自分が頑張ってきちんと育てないといけないから,つい力が入って怒ってしまう。」とあり,一方娘としては,「母親がいなくなっても自分なりに頑張っているから,無理に関わろうとしたり,理想像を押しつけるのはやめて欲しい。でもどうせ分かってもらえない。」と訴える。

一家の中でクッション役であった母親の死によって,心理的コミュニケーションの欠如が生じ,家庭内の微妙なバランスが崩れてしまった。これにより浮かび上がった父と娘の認知の食い違い・思い込みを再検討し,親子のモーニング・ワークを援助するのが本症例の目的であった。姉も含めた話し合いがもたれた結果,お互いが相手の立場に立って客観的に物事を見る事が出来るようになった。「話してみるとこんなに穏やかになれる。父の気持ちが分かったし,父も私を理解しようとしている事が分かった。これからも何かあったら話し合います。」とpositiveな体験として治療や話し合いを捉えることが出来,母の死という対象喪失に伴って無意識のうちに出現していた疼痛もいつの間にか消失したため,短期間で治療終結となった。

4 アメリカの大学院におけるカウンセリング教育

カウンセリングオフィス松井 松井洋子

アメリカの大学院における修士課程でのカウンセリング教育の実際について以下のトピックスについて発表した。

  1. アメリカでカウンセリングができるのはどういう人たちか。
  2. カウンセリングを学ぶにはどういう学部や専攻があるのか。
  3. どんな科目をとるのか。プログラム全体の流れはどうなっているのか。
  4. 学位はどうなっているのか。
  5. 卒業まで何単位とるのか,何年かかるのか。
  6. 授業料,生活費はいくらかかるのか。
  7. 勉強はどのくらい大変か。英語の力はどのくらい必要か。日本の大学の成績はどのように評価されるのか。他に必要な準備は。
  8. Acceditation,Certification,Licensure
協力:角田みゆき(大阪市),Frances Conine(Louisiana, U.S.A.)

電話相談は,面接による精神療法に比べると,電話という通信手段で手軽に匿名で相談できるという点で,かけ手にとっては経済的,時間的,心理的に利用しやすい特徴がある。しかし一方では,電話相談はその多くが一回きりであるため,電話相談を受ける側にとっては,精神療法のように継続性のある関わりができない。認知療法も,短期とはいえ継続性のある面接のセッションを基本にしており,その意味で一回きりの相談が多い電話相談に認知療法をそのまま適用するのは難しいと言える。しかし,認知療法にはさまざまな技法があり,その一部の技法は電話相談においても応用することができる。「認知のゆがみに気づく質問」,「コラム法」といった技法は電話相談においても応用できた。「気晴らしの利用」,「リラクゼーション」,「呼吸法」といった技法は電話相談の中でも紹介できると思われる。継続したセッションが必要な「達成感と快感の評価」,「宿題」は一回の関わりが多い電話相談では難しいと思われる。電話相談における認知療法の効果をどのように行ってゆくかが今後の課題と言えよう。

6 スクールカウンセラー活動と認知療法的アプローチ

新潟大学人文学部 神村栄一

発表者は,過去4年間,複数のスクールカウンセラー派遣事業に従事してきた。これらの活動は,契約期間や訪問回数が限られ,内容的には,対生徒・対保護者面接だけでなく,対教師コンサルテーションが重要となるという特徴がある。

発表者のカウンセラー活動の中で,認知療法的なかかわりはかなりの効果が認められた。生徒の援助に展望が見えにくくなって無力感や不安を高めている教師や保護者のサポートにおいては,教師特有のshould思考に介入し,かつ生徒の不登校や怠学,反発に対するとらえかたに柔軟性を持たせる介入が行われた。思春期特有の葛藤,とりわけ自責的・悲観的思考に対しては,そのきわめて主観的なものの見方を解くための介入が行われた。

複数の事例における具体的なかかわりを紹介した上で,・短期精神療法的介入法としての認知療法の意義,および,・思春期特有の葛藤処理に対する認知療法的介入の効果,について考察が加えられた。

7 対人不安の青年に対する認知行動カウンセリングの試み:学校カウンセリングの視点から

鳴門教育大学大学院学校教育研究科 渡辺元嗣

鳴門教育大学人間形成基礎講座 井上和臣

高校を卒業後,引きこもりの時期を経て,パート勤務をはじめた青年を悩ませる対人不安に,認知療法の理論と技法に基づいた認知行動カウンセリングを高校教師が試みた。

本人は認知モデルを理解するとともに,不快な対人場面での認知に注目し,行動を方向づける不合理な認知を取り出すことができるようになった。その認知を思考記録表でたどりながら合理的なものに再構成していったり,対人スキルの向上を図るためにロールプレイを行うことによって,対人不安は著しく軽減し,生活の満足度が向上するとともに,「暗くて内気で頼りない奴」という信念の確信度は顕著に低下した。

今,学校現場では,教師の資質や特性に合う効果的なカウンセリングの理論と技法が求められている。認知療法は「意識体験からすぐに得られるものを取り扱う」ことにより理解が容易であり,「誘導による発見」,「共同的経験主義」といった対応は教育的で,教師の特性に合っているといえる。認知療法は教育の場面で利用しやすく,教師にもっと理解される必要があると考える。

8 認知療法の効果研究のレビュー

慶應義塾大学大学院医学研究科修士課程(医科学専攻) 小野田直子

心理療法の有効性に関する,統制された体系的な研究が行われるようになって以来,心理学的治療法の有効性が一般的に受け入れられるようになった。しかし現在でも多くの課題が残されており,心理療法の効果とその評価について,現時点での状況をレビューすることは有用である。本発表では心理療法のうち,特に認知的介入の効果に関する研究をレビューする。

うつ病に対する認知療法は,抗うつ薬による薬物療法との比較において,その効果は薬物療法と同等あるいはそれ以上の効果が認められており,特に両者の併用の効果は大きい。また,うつ病の再発予防効果に関しても認知療法の効果が証明されており,大いに期待されている。パニック障害,社会恐怖,全般性不安障害,強迫性障害などの不安障害に対しても,認知療法は薬物療法やリラクゼーション,暴露療法,反応抑止などの行動的技法よりも効果的であることが認められている。摂食障害,特に過食症の治療として,認知療法は対人関係療法と共にその治療効果が薬物療法などより優れていることが証明されている。

9 うつ病治療に対する医学判断学的アプローチ

鳴門教育大学大学院学校教育研究科 柏木信秀

鳴門教育大学人間形成基礎講座 井上和臣

うつ病の治療法である認知療法・薬物療法・認知療法と薬物療法の併用療法を,医学判断学の手法を用いて比較検討した。最初に治療に伴う転帰を判断樹に表し,MEDLINEをもとに精選した11の対照研究から各転帰について確率値と効用値を求め,最後にそれぞれの治療法に対する期待値を比較する感度分析を行った。その結果,併用療法が最良の治療法であることが推測された。副作用と治療からの脱落がこの結果に影響すると思われた。今後,医学判断学によって治療選択の精度を上げるには,認知療法と併用療法の副作用を明確にし,それぞれの治療転帰に対する効用値の測定が不可欠であると考えられた。

10 高知認知療法研究会の活動報告

医療法人精華園 早川滋人,谷 直介

鳴門教育大学人間形成基礎講座 井上和臣

平成8年5月に発足した高知認知療法研究会の平成10年9月までの活動内容ならびに事例報告者に行ったアンケートの集計結果をあわせて報告した。

定例会は,奇数月の第3あるいは第4土曜日の午後2時から4時までの2時間開催している。非会員も随時参加可能としている。内容は講義と事例検討を中心に行われ,井上が講師と事例検討のコメンテーターを担当している。最新の認知療法に関する話題を提供するとともに,事例検討を通して認知療法について学ぶ会となっている。また,ニューズレターでは前回の定例会の報告と次回定例会の案内,また認知療法に関する書籍・論文や関連学会等の情報なども紹介している。定例会に合わせて年6回発行をしている。

現在の研究会会員数は43名であり,職種としては心理が最も多く,ついで医師,看護となっている。またPSWや保健婦も入会し,幅広い職種からの参加が得られている。これまでに13回の定例会を開催し,参加者数は平均13.7名であった。


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