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教育講演1 認知療法と行動療法

早稲田大学人間科学部教授の坂野雄二氏は,認知療法と行動療法の「同一性はたくさん見つかったが,差異性は見つからない」と前置きした後,以下のように論を進めた。

行動療法の発想

同氏は「憶測でなく実証的に」臨床の出来事を見ることが臨床心理の世界では必要とされていると指摘し,次いで,「原因論から維持論への転換」という行動療法の特徴を提示した。臨床心理の領域では従来から「問題がなぜ生じたのか」に焦点が当てられてきたが,「問題がなぜ今続いているのか」を考える転換が今や必要とされているのではないかと同氏は問いかけた。さらに,「原因論から維持論への転換」という形で援助を考えると,具体的な解決方法が見つかりやすいことを強調した。

同氏によると,これまで行動療法は症状や問題行動を理解する枠組みを提供し,同時に症状と問題行動の効果的な改善をねらう技術を提供してきた。たとえば,引っ込み思案という現象には,適応的行動を学んでいないために生じる「未学習型の問題」と,不適切な行動や考え方を身につけてしまっているために起こる「学習型の問題」がある。「未学習型」の場合は,新しい適応行動をどう身につけるかを考えることが大切であり,「学習型」では,獲得してしまった問題をどのように改善すればよいか,そして新しい行動をどのように獲得すればよいかという二段階が必要になる。いずれにしても,その知識と技術を行動療法は提供してきたと同氏は述べた。

行動療法の歴史的展望

行動理論にもとづく治療法の発想は19世紀までさかのぼるが,行動療法という言葉は1950年代前半に生まれたとされる。1958年には今も行動療法の代表的技法とされる逆制止・系統的脱感作法というアイディア・治療法がWolpeによって発見された。しかし,系統的脱感作法あるいは逆制止は注目されて10年しないうちに批判を浴びた。系統的脱感作法を要素に分解して考えるという発想が出たり,リラクセーションなしでも不安は消えるという研究結果が次々と提示されるようになったのである。同氏によると,このように行動療法はある技法の有効性が示されると,つねにその本質は何か,何が効いているのかという議論が行われ,進化してきた。

ところが,1970年前後から行動療法の中に認知革命と呼ばれる動きが出てきた。目に見えない認知的活動をその他の見える活動と同じように考え,行動理論として統合していこうとする動きである。たとえば,Banduraの社会的学習理論に代表されるように,個人が刺激をどう解釈しているかが論じられ,行動の認知的制御が強調され,self-efficacyという概念が提唱されたのである。

同時に行動療法の理論とは別のところで認知革命の胎動が始まっていたという。BeckとかEllisの臨床現場から認知革命のマグマが動き出し,Meichenbaumはストレス免疫訓練という形で治療モジュールを発展させてきたし,Seligmanのlearned helplessnessやlearned optimismといったアイデアは臨床の基礎理論として大きな貢献をした。

そういう動きの中で1970年代後半には古典的な行動療法と認知という発想を取り上げたものが認知行動療法として結びついたと同氏は述べた。

認知療法と行動療法の同一性

1970年はアメリカ行動療法学会にとって記念すべき年で,機関誌“Behavior Therapy”が出版され,その第1巻第1号に「行動療法の独自性を探る」という特集が掲載された。その中にBeckが論文を寄稿して「認知療法から見た行動療法」を論じ,行動療法との共通点として次のようなものをあげている。

  • 治療面接が構造化されていて,治療者はより積極的に患者に働きかける。
  • 治療者は現存する症状あるいは行動上の問題に焦点を当て,患者の問題を操作するための一連の治療法を計画する。
  • 認知療法は症状や問題行動の,より認知的な面に焦点を当てているだけにすぎない。
  • 患者の児童期の経験や発達初期の家族との人間関係について,それが症状に本質的に影響を及ぼしているとは考えない。
  • 無意識や幼児期の性的問題,防衛機制といった精神分析的な,説明不可能な仮定を排除する。
  • 患者は不適応的な反応パターンを獲得してしまったのであり,それは学習解除されるものである。

認知療法と行動療法の未来:認知行動療法

「行動療法と認知療法の将来はどうなるのか?悪しき折衷か,それとも統合か?」と問いかけた同氏は「認知行動療法という形で統合されていくのではないか?」と予測し,認知行動療法の着眼点として以下を列挙した。

  • 遠い過去に経験した事柄にはこだわらない。
  • 「今,ここで」の状態を明らかにして,どうして問題が維持されているかを考える。
  • 問題をなくそうと考えるだけでなく,同時に,適応行動をいかに積極的に獲得するかという点から援助プログラムを考える。
  • いつまでも治療者に頼るのではなく,できるだけ早く自立するように考える。
  • 問題の解決をはかるためには,自分が今どのような状態にあるかを客観的に理解してもらう。
  • 無意識やコンプレックスといった実在するかどうかわからない概念は用いるのをやめる。
  • 問題解決の方法は案外身近なところにある。まず,環境への働きかけを積極的に考える。
  • 現実的で適応した考え方をとるようなプログラムを考える。
  • 対処の方法を学ぶことで再発予防を考える。

この後,同氏は大うつ病エピソードの患者に対する認知行動療法の例を,第1期(標的を整理する段階),第2期(行動的介入を中心とした段階),第3期(認知的介入を中心とした段階),第4期(日常生活での対処と治療終結を考える段階)に分けて提示した。

次に,摂食障害を例に,認知的変数がどのように不健康な非構造的ダイエット行動に寄与するかをモデル化することによって,認知行動療法の枠組みの中で,症例への関わりが可能になってきたことを示した。

そして,「認知療法の発想と行動療法の発想をうまく統合することによって,疾患を特定した治療モジュールが今後もさらに出てくる」と予測した。

最後に,同氏は今年の夏メキシコで開催される『国際行動療法認知療法会議』について紹介し,「まさに『認知療法と行動療法の同一性と差異性』が世界レベルで論じられることになるだろう」と講演を締めくくった。

『認知療法News:第6号』(星和書店,こころの臨床ア・ラ・カルト,1998年9月号)より引用

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