理事長挨拶

日本認知療法学会のホームページにおいでいただきまして、ありがとうございます。

日本認知療法学会は、認知療法をともに学び、実践していくことを目的に設立された学術的な集まりで、医師、心理士、看護師、精神保健福祉士、教師など多くの専門家が参加しています。このホームページは、日本認知療法学会の活動をお伝えするとともに、その活動の中から得られた社会に役に立つ情報を発信する目的で作られました。

認知療法というのは、認知(ものの受け取り方や考え方)に焦点を当てながら気分や行動を調整して精神疾患を治療する、治療法の一つとして発展してきました。認知療法は、米国ペンシルベニア大学のアーロン・T・ベック博士が、最初にうつ病の患者さんにこの治療法を試み、薬物療法に匹敵する効果があることや、再発予防効果に優れていることなどを実証したことで、米国はもちろん世界的に注目されることになりました。

その後、世界の多くの研究者が、うつ病だけでなく、パニック障害や社会不安障害、強迫性障害などの不安障害、パーソナリティ障害、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症など多くの精神疾患に活用できることを示して、いまでは精神疾患の治療の大きな柱の一つになっています。

わが国でも、厚生労働科学研究をはじめとして、認知療法の有用性を実証する研究成果が積み重ねられ、精神疾患はもちろんのこと、身体疾患に伴う精神的ストレスへの対処、さらには、学校や職域、地域、法律関係の領域など、多方面で活用されるようになってきています。それだけ認知療法への期待が高まってきているのですが、その一方で、その期待を担うだけの専門家や施設が不足しているという現実も存在します。

日本認知療法学会では、そうした様々な現状をきちんと認識し、会員同士がお互いに切磋琢磨しながら力を伸ばしつつ、社会に役立つ専門家を育てていく場を提供していきたいと考えております。最後になりますが、そうした学会の発展のために、皆様のお力を貸していただきたいと切に願っております。




ページの先頭に戻る
名称変更

学会名の変更に関する理事長メッセージ
日本認知療法学会理事長 大野裕

会員の皆さまには、日頃より日本認知療法学会の諸活動にご協力をいただき感謝申し上げます。
このたび、平成28年1月1日にさかのぼって、学会名称を『日本認知療法・認知行動療法学会』変更することに決定いたしましたのでご報告させていただきます。

学会名称に関しましては、先の東京での第15回日本認知療法学会に際して開催された定例の役員会において、「日本認知療法・認知行動療法学会」への変更が提案され議論しましたが、とくに明確な反対意見はなく、名称変更の方向で作業を進めていくことが確認されました。その結果を受け、同日開催の総会において私が理事長として「日本認知療法・認知行動療法学会」への名称変更を表明いたしました。
その後、パブリックコメントを募集したところ7名の会員から意見が寄せられました。その内容には賛否両論ありましたが、以下のような事情も勘案して、理事長として学会名称を「日本認知療法・認知行動療法学会」と変更することに決定いたしました。

学会名称の変更をご提案いただいた先生方からは、診療報酬の対象として「認知療法・認知行動療法」という用語が用いられていることから、医療の分野でも本学会が積極的に貢献していることを明確にすることの意義をお示しいただきました。

近年とくに、医療場面での認知行動療法の評価が高まり、平成28年度の診療報酬改定で、医師と看護師がチームを組んで認知療法・認知行動療法を実施した場合に医療保険が適応される可能性が高くなってきています。
また、公認心理師法案が可決されたことを考えますと、将来的には医師と公認心理師のチームにも医療保険が適応されるようになる可能性があります。
この他、不安障害/不安症や睡眠障害など、認知療法・認知行動療法が保険適用となる対象疾患が近い将来、広がる可能性も指摘されています。

このように、本学会の主たる活動場面のひとつである医療で認知療法・認知行動療法が拡大する可能性が高くなっているなか、学会名称を変更することによって、本学会が医療場面で中心的な役割を果たすことを明確に示すことは、本学会のさらなる発展/飛躍につなげるものと信じております。
また今年は、学会名の変更と並行して、日本精神神経学会が進めている専門医制度に、本学会も本格的に参画し、医療場面での本学会の存在感を高めていきたいもと考えています。

そして、こうした医療場面での活動をひとつの足がかりとして、教育、職域、地域、司法など多方面で認知行動療法を活用していただけるように、多くの職種の方々に参加していただける環境を、学会としてさらに整えていきたいと考えております。

平成10年の日本認知療法研究会、そして平成13年の日本認知療法学会の発足に続く大きな変革となりますが、この学会名称の変更を機に、皆さまと一緒に本学会のさらなる発展に寄与していきたいと考えております。
皆様の変わらぬお力添えを切にお願い申し上げる次第です。

ベックからの手紙

アーロン・ベック博士から認知療法・認知行動療法会員の皆様へのご挨拶

この手紙は、アーロン・ベック博士にゆかりのある認知行動療法家が集まったBeck Excellence Summit (2017年10月)に大野裕理事長が参加した際にベック博士からのご提案を受けてお願いしたものです。

2017年10月18日

日本認知療法・認知行動療法学会の会員の皆様へ

このたび大野裕理事長からご招待を頂き、日本認知療法・認知行動療法学会の会員の皆様へ一言ご挨拶の機会をいただき、嬉しく思います。

まず、ここ最近の認知行動療法の適用とフォーミュレーションの発展についてご紹介したいと思います。
認知行動療法は、たくさんの臨床試験を通して、アメリカ精神医学会のDSMに定められているほとんどの精神疾患において効果が示されてきました。
各研究を通じて、それぞれの疾患の特異的な非機能信念が解明され、その非機能的信念を標的とした治療計画が策定されてきました。
薬物乱用や統合失調症といったこれまで認知行動療法による治療が難しいとされてきた疾患も、これらの疾患に適した形に治療プロトコルが修正されたことは触れておかなければなりませんが、認知行動療法的アプローチによる介入に効果があることが分かってきました。
しかし、もっとも驚くべきことは、認知行動療法が身体疾患に対しても適用がされ始めていることです。
認知療法に高血圧や過敏性腸症候群といった様々な胃腸障害、そして多様な皮膚疾患やてんかん発作にも臨床試験にて効果が示されいます。パーキンソン病やその他の神経疾患を含む数多くの進行性の疾病において症状の進行を遅らさせるというエビデンスはまだありませんが、症状を軽減するための認知行動療法的アプローチが取り組まれています。
また、認知行動療法により末期がん患者のQOLが改善したという研究報告も示されています。最近は広く知られてきましたが、認知行動療法は不眠にもが有用であると分かってきました。そして、認知行動療法は、糖尿病治療などの治療アドヒアランス不良への治療にも有用であることが分かっています。
更に、今後も研究が必要な分野ではありますが、認知行動療法は喘息の治療にも期待できることが示されつつあります。

近年、様々な疾患においてポジティブな態度を活性化させ、非機能的でネガティブな態度を低減させることの重要性が強調されてきました。
Padesky博士とMooney博士らは精神病症状を認めない人に対してstrength-based CBTの有効性の実証研究を先導してきました。
私のチームではPaul Grant博士らが統合失調症に対するRecovery Oriented Cognitive Therapy(ポジティブな信念や行動の活性化に向け取り組む行動志向的アプローチ)の有効性を実証してきました。

最後になりますが、基本的認知行動モデルのさらなる発展が必要です。
ポジティブな行動にフォーカスした様々な認知行動療法的アプローチを通して、様々な疾患からの回復においてはポジティブな信念が重要であることが示されるようになってきました。
そして現在、個人が特定の疾患に罹患するとネガティブな信念や態度が大きな役割を占めるのに対し、回復においてはポジティブな態度が重要な役割を担っているということも、分かってきました。

日本認知療法・認知行動療法学会、そしてより大きな枠組みでいえば認知行動療法界への皆様のご支援と積極的なご参加によって、日本認知療法・認知行動療法学会会員の皆様が、引き続き臨床の場や心理科学において革新的で飛躍的な発展を遂げ続けられることを確信しております。

アーロン・T・ベック

October 18, 2017

Subject: Remarks to Members of the Japanese Association of Cognitive Therapy

Dear Members of the Japanese Association of Cognitive Therapy,

At the invitation of Dr. Yutaka Ono, I am pleased to write a few words to the members of the Japanese Association of Cognitive Therapy.

Firstly, I would like to update you all on some of the recent developments in the application and formulation of cognitive therapy (or as it is now generally known as Cognitive Behavior Therapy). In the wide number of clinical trials, cognitive therapy has been shown to be effective in almost every condition stipulated in the Diagnostic and Statistical Manual of the American Psychiatric Association. In each case, specific dysfunctional beliefs have been elucidated for each of these conditions, and a treatment plan has been formulated to target these dysfunctional beliefs. Challenging conditions such as substance abuse and schizophrenia have also responded to cognitive interventions- although I will mention the treatment format has been modified to suit each of these conditions. The most astounding application of cognitive therapy however, has been in its application to medical conditions.

Clinical trials have shown cognitive therapy to be affective in ameliorating hypertension, various gastrointestinal disturbances (ex. Spastic Colitis), various skin problems, and seizures. Cognitive approaches have also been adapted to provide symptomatic relief in a number of progressive conditions including Parkinson's disease and other neurological disorders - although evidence is lacking that it actually slowed down this progression. A research study showed that this approach can also improve the quality of life in terminal cancer patients. One of the most widely publicized approaches has been Cognitive Behavior Therapy for Insomnia. CBT has also been successfully utilized in the treatment of disorders involving non-compliance with medical regiments such as in the treatment of Diabetes. Additionally, CT/CBT has shown some promising results in the treatment of Asthma, although further studies are required.

In recent years, there has been an increased emphasis on activating the positive attitudes as well as reducing the dysfunctional negative attitudes in a variety of conditions. Padesky and Mooney have taken the lead in demonstrating the efficacy of strength based CT in the non-psychotic conditions. My own team, headed by Paul Grant, has demonstrated the efficacy of Recovery Oriented Cognitive Therapy for Schizophrenia, an approach which is action oriented and is directed towards activating positive beliefs and behaviors.

Finally, there needs to be further expansion of the basic cognitive model. The various approaches focusing on positive behaviors indicate the importance of the positive beliefs in recovery from the various disorders. At the present time, it appears that the negative beliefs and attitudes play the larger role as an individual becomes afflicted with a particular disorder, but that the positive attitudes play a major role in recovery.

With your support of and conscious participation in this organization and the CBT community at large, I trust that members of the Japanese Association of Cognitive Therapy will continue to make innovative and important strides both in clinical practice and psychological science.

Aaron T Beck